最近SNSで,夫が育休明け2日で会社から転勤命令を出され,有給もとらせてもらえず退職を余儀なくされたとの妻のつぶやきが話題になっていますね。
その後会社名もさらされていました。

会社からの転勤命令は夫の育休明け,妻の復職まで2週間,子供たち(2歳と0歳)の保育園入園が決まったばかり,新居への引っ越し10日後というタイミングだったそうです。

配偶者の勤務地が全国各地にある他方配偶者にとっては明日は我が身,他人事とは思えませんよね。

転勤命令の有効性については東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日)が有名ですが,ここでは,➀業務上の必要性の有無➁不当な動機・目的の有無➂通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無を判断しています。
これまでの裁判例の動向からすると,単身赴任になって配偶者や子供と別居を余儀なくされるとか,通勤時間が長くなるといったことは「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とはいえないようです。

上記の妻のつぶやきの場合はどうでしょう。

この夫が転勤命令を受け入れた場合,家族はどうなるのでしょうか。

妻は復職,子の保育園入園内定,新居への引っ越し直後という事情からすると,夫は単身赴任でしょうか。
2歳と0歳の子がいるのに単身赴任なんて,(私なら)転勤命令は拒否したい!でも,そんなことをすれば,懲戒解雇されてしまうのでしょうか。

単身赴任で家族と別居を余儀なくされるだけでは転勤命令が無効となることは難しそうと述べましたが,この夫は,単身赴任することによって「子の養育」を行うことが困難となり,また,妻も1人で2歳と0歳の養育を行うことを余儀なくされるわけですからやはり「子の養育」に支障が生じそうです。
事業主は労働者の配置変更の際,当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮する義務があるので(育児介護休業法26条),会社はこの夫に対して無配慮で転勤命令を出したのであれば,有効性を争えた可能性があります。

企業の人事権は広く認められていますが,家族の形・生活環境や働き方の形が変わる中,企業だけ昔のままというわけにはいきません。
育児や介護,その他もろもろの事情を抱えながらも働きやすい社会にしていくために,一人一人が声をあげる必要があります。
現代はネットも普及し,たった一人のつぶやきが大きな波紋を呼び,後に体制を大きく変えるきっかけになることもあります。

こんな命令おかしいな,もっとこんな環境で働きたいな,変えられるかな。
そんな疑問をお持ちになりましたら,いつでもご相談ください。(弁護士 石田志寿)